CHILDHOOD'S END

Canon LiDE500F

アーサー・C・クラーク(90)が亡くなった。
あの「2001年宇宙の旅」の原作者と言えば、若い人も何となく分かるだろうか…
私自身にとっては、何と言っても「幼年期の終わり」の著者という点に尽きる。
この作品を読んだのは、何時だっただろう?
おそらく中学3年生頃…15歳ぐらいだったと思う。
ファンタジー小説の原点、R・ブラッドベリの「何かが道をやってくる」を12歳で読み、17〜18歳にかけてJ・G・バラードの「沈んだ世界」に出会った。
思えば、多感な思春期に最適なタイミングでベストな作品に出会っている。
まさに奇跡の読書歴。
今考えてもこれ以上の出会い方は無いと断言できる。
中でも「幼年期の終わり」は、自身の考え方に決定的な影響を与えた作品だ。


宇宙はあまりにも広く、気の遠くなるほどの時間が存在している。
当然、地球以外にも生命は存在するが、互いが出会うことは無い。
時空をワープする便利な小道具なども存在しない。
ただ何もない空間が横たわるだけである。
広大な空間の前では、地球や太陽も無いも同然。
たかだか数十億年の時間を費やして、燃え尽きるだけのことだ。


巻末の無力感、脱力感は、仏教的な諦念にも通じる。
読後、なぜか涙が止まらなかった思い出がある。


昨年出た光文社の古典新訳文庫「幼年期の終わり」(池田真紀子訳)は、1989年にクラークが序盤部分を書き直した新版を底本にしている。
ここでは作品の時代設定が30年ほどずれ、米ソ冷戦が終結した状態から話が始まっているが、基本部分に変更はない。
クラークは、まえがきでこの作品の映画化についても語っている。
ハリウッドが握る映画化権は、クラークが56年に受け取った金額の200倍に達しているようだ。
世界で最も映画化が待ち望まれ、そして最も映画化が難しいこの作品。
果たして手がけるのは誰か…
ただこれだけは言える。
誰がやっても小説をしのぐことはできないと…